あなたは、「ジャパニーズデザイン」と聞いて何を思い浮かべるだろう?職人技が光る繊細なディテール、それとも服づくりの規範にとらわれない自由なアプローチだろうか。 1980年代に一世を風靡し、今も世界にその名を轟かせるYohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)やComme des garcons(コムデギャルソン)はもちろん、1990年代のストリートカルチャーに火をつけたデザイナーたちの存在は、Virgil Abloh(ヴァージル・アブロー)やKim Jones(キム・ジョーンズ)など現在のファッション業界をリードする重要人物たちにも大きな影響を与えたと言われている。 今回は、裏原スタイルのアイコンから世界を舞台に活躍するデザイナーへと飛躍したUNDERCOVER(アンダーカバー)の高橋盾や、日本の伝統的な技術とフレッシュな感性が融合したスタイルで独自の存在感を放つCOOHEM(コーヘン)の大江健ほか、パンデミックの影響でより身近な世界に目が向く今だからこそ、改めて気になるジャパニーズデザイナーを紹介。写真家の青木正一が東京の街で撮り下ろす新シーズンの注目ルックと併せてチェック。
Maison MIHARA YASUHIRO
デザイナーの三原康裕が1997年にシューズブランドとしてスタートしたMIHARA YASUHIRO(ミハラヤスヒロ)は、1999秋冬コレクションよりレディトゥウェアを展開。2016秋冬コレクションでMaison MIHARA YASUHIRO(メゾン ミハラヤスヒロ)として再スタートし、素材へのこだわりが光るデザイン性の高いシューズと既存の枠にとらわれない遊び心のあるウェアで、国内外で注目を集めている。 《Basic Antinomie(ベーシック・アンチノミー)》と題された2021秋冬コレクションのテーマは、反調和の美。「僕は、調和を目指さない。そこに美があると信じている。一人のクリエイターとして誰も見たことのないものをつくり続ける。ファッションは、所詮うたかたの夢だから」という三原の言葉が示すように、意外性のある素材使いやシルエットのほか、ブランドのシグネチャーである脱構築・再構築デザインが軸となっている。背中や肩、袖にボリュームを持たせたオーバーサイズのシルエットや、2つの異なるアイテムを重ねて表面だけを破くことで、内側から別のアイテムを露出させる計算されたレイヤードテクニック、細部までこだわったダメージ加工に注目したい。一定温度の温水に通すことで縮むオリジナルの縮絨デニムは、ブルゾン、Tシャツ、タ ートルネックなど、本来デニムでつくらないようなアイテムにも使用されている
Kolor
2004年にデザイナーの阿部潤一が創立したブランドKolor(カラー)は、パターンと素材、縫製へのこだわりと、時代の気分を反映させたデザインが魅力。独創的な色使いと斬新な素材の開発で高い評価を受け、2012秋冬コレクションよりパリでコレクションを発表している。 そんなKolorが2021秋冬コレクションで表現したのは、<新しい形でのミニマル>。従来、要素を削ぎ落すことで表現されてきた<ミニマル>を独自の視点で再解釈し、装飾性を残したままのシンプルさを追求、同ブランドが得意とする異素材ミックスや再構築デザインをメインに、複雑さとシンプルさの絶妙なバランスが際立つコレクションに仕上げている。異なるカラーで展開するアシンメトリードレスは、グレンチェックのミニドレスをベースにロング丈のパネルとチュールをレイヤード。シンプルに見えて捻りのきいたデザインは、前と後ろで全く違った表情を見せる二面性が魅力だ。一方Aラインスカートは、デニム生地を覗かせたレイヤード風のディテールと、あえて露出させたバイカラーのファスナーのテープがポイントになっている。プレイフルなディテールと、全体で見たときのシンプルさのコントラストを楽しんで。
UNDERCOVER
Undercover(アンダーカバー)は、デザイナーの高橋盾が文化服装学院在学中の1990年にスタート。1993年、高橋がA BATHING APE(ア・ベイシング・エイプ)のNIGOと共にオープンしたセレクトショップNOWHERE(ノーウェア)は、後に<裏原系>の先駆けとされ、東京ストリートカルチャーの発信地となったことでも知られる。1994年秋冬よりUndercoverとして初めて東京コレクションに参加。2003年春夏コレクションからは発表の場をパリへ移し、世界からも注目されるブランドへと飛躍した。<We make noise not clothes(服ではなく、ノイズを作る)>というモットーを掲げ、反骨精神とユーモアを軸に生み出すデザインは、優雅さ、儚さ、平和、違和感など、さまざまな異なる要素が共存する混沌とした独特の世界観を持つ。 2021秋冬メンズコレクションでは、スウェットシャツやパーカー、ダウンジャケット、パーカーコートなどのワードローブに欠かせないアイテムを<少しずれた>独自の視点で再解釈。スウェーデン人画家Markus Akesson(マーカス・アッケーソン)の作品を大胆にグラフィックとしてあしらったアイテムを中心に展開した。数匹の蛾が背中に止まった青年や、蜘蛛を手にのせた子供の姿など、ブランドの世界観をしっかりと反映した、美しくもどこか不穏な雰囲気が漂うアートワークをあしらったウェアは必見だ。
COOHEM
江戸時代から繊維産業が盛んだった山形県の山辺町で1952年に創業したニットメーカー、米富繊維株式会社。その自社ブランドとして、2010年に誕生したのがCOOHEM(コーヘン)だ。ブランド名の由来となったのは、形状の異なる複数の素材を組み合わせて編み、まったく新しいテキスタイルを生み出す交編(こうへん)と呼ばれる高度なテクニック。まるで織物のようなニットツイードと鮮やかなカラーで、ニットウェアの新しい魅力と無限大の可能性を体現している。ディレクターを務めるのは、米富繊維創業者の孫にあたる大江健。経験と技術を兼ね備えた職人と、豊かな感性を持った若手スタッフが一丸となって生み出すアイテムは、ずっと大切に着たくなるはず。 「在るものは再び輝き出す」―そんな言葉が添えられた今シーズンは、伝統とフレッシュな感性が融合する、COOHEMらしさを凝縮したコレクションに仕上がっている。ぱっと目を引くカラーのセーターやカーディガンは、どこかノスタルジックな雰囲気。華やかなのに、柔らかく飾らない印象だ。一枚でこなれた雰囲気を演出できるニットドレスや、ツイードのセットアップにも要注目。
AMBUSH
VERBAL&YOON夫妻による実験的なジュエリーブランドとして誕生したAMBUSH®(アンブッシュ)は、ポップアートに着想を得た東京らしくもユニークなデザインで世界中でファンを獲得。Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)、sacai(サカイ)、UNDERCOVER(アンダーカバー)、Off-White(オフホワイト)といったさまざまなブランドとのコラボレーションを実現してきた。 2015年、パリにて<ストーリーを完成させるためのキャンバス>という位置づけで、ユニセックスのレディトゥウェアコレクションを発表。2018年にはYOONがKim Jones(キム・ジョーンズ)からの指名を受けてDiorのメンズウェア ジュエリーデザイナーに就任し、ますます注目を浴びている。
前シーズンでは、<怠惰に転ばない心地よさ>の本質に迫ったYOON。そこから発展させた2021秋冬コレクションでは、安心できる場所で快適な時間を過ごしているときに溢れ出る想像力や心情を表現した。家にいながらさまざまな世界を想像の中で渡り歩くように、グラマラスなもの、アウトドアでテクニカルなもの、未来的で都会的なものなど、異なるムードのアイテムを展開。クリーンなテーラードアイテムには柔らかい素材を使用するなど、スタイリッシュなデザインと着心地をのよさを両立させた。シックなブラックのロングドレスには、ウエスト部分の大胆なカットアウトと大きなビジューでAMBUSHらしいエッジを。着物の襟や帯を思わせるディティールをあしらったダウンベストなど、日本文化に着想を得たデザインも引き続き登場した。